世界で一番高い山、エベレスト。
標高は約8,849m。
世界最高峰を目指すなら、できるだけ速く、できるだけ上へ登った方がいい。
普通に考えれば、そんな気がする。
体力があるなら進む。
天気がいいなら進む。
登れるうちに、できるだけ標高を稼ぐ。
でも、高い山ではそうはいかない。
むしろ、登れるからといって登りすぎると危ない。
理由は、酸素にある。
高くなるほど、体には時間が必要になる
標高が上がると気圧が下がり、体が利用できる酸素は少なくなっていく。
たとえば標高約3,050mでは、吸い込む空気の酸素分圧は海面付近の約69%まで低下する。
人間の体は、この環境にある程度適応できる。
呼吸が変わり、酸素を取り込もうとする体の反応も変わっていく。
これが「高所順応」。
ただし、時間がかかる。
急激に高度を上げると、体の適応が追いつかず、急性高山病などを起こす可能性が高くなる。
つまり高い山では、
上へ行けることと、上へ行っていいことは違う。
8,849mを目指して、今日上げるのは数百メートル
高所登山には、少し面白い目安がある。
UIAA(国際山岳連盟)の医療委員会は、標高2,500〜3,000mを超えたあたりでは、次に寝る場所を前日の寝場所より300〜500m以上高くしないことを勧めている。
さらに、2〜4日登ったら、同じ標高で2泊する。
その日はもっと高いところまで登ってもいい。
ただし、寝るためにまた下りてくる。
8,849mの山頂を目指している。
でも、1日に上げる睡眠高度は数百メートル。
不思議だ。
もっと登れる体力があっても、あえて登らない。
山頂は上にある。
なのに、下りる。
せっかく稼いだ標高を、自分から失う。
地図だけ見れば、山頂から遠ざかっている。
でも、それも登頂するための過程になっている。
高い場所を経験する。
下りる。
休む。
また登る。
前より高い場所へ行く。
また戻る。
そうやって少しずつ、8,849mに挑戦できる体を作っていく。
「昨日より高い場所にいる」が正解とは限らない
これは結構おもしろい。
普通なら、
昨日より高い場所にいる =前進
昨日より低い場所にいる =後退
と考えたくなる。
でもエベレストでは、そんなに単純ではない。
今日は登る。
明日は休む。
その次の日はもっと登る。
そして、下りる。
標高だけを見れば、前進したり後退したりしている。
それでも、登山全体では山頂へ近づいている。
毎日最高記録を更新する必要はない。
むしろ、無理に更新し続けようとすれば危険になる。
山頂へ向かうことと、毎日山頂へ近づくことは、同じではない。
なんだか、人生も似ている
人生で何か大きなことをやろうとするときも、案外同じなのかもしれない。
プロの選手になる。
外国語を話せるようになる。
資格を取る。
会社を作る。
大きなものを目指すと、どうしても山頂を見る。
そして山頂と現在地を比べる。
まだこんなに遠い。
もっとやらないといけない。
昨日より進まないといけない。
でも、エベレストを登る人は、そんな登り方はしない。
8,849mを見ながら、
今日は数百メートル。
登ったら休む。
必要なら下りる。
そして、また登る。
だったら人生でも、毎日山頂に近づこうとしなくてもいいのかもしれない。
今日できる高さまで登ればいい。
今日の標高を決める
たとえば、
「自分のアプリをリリースする」
という山頂がある。
今日そこへ行くことはできない。
だから、途中にいくつかの標高を作る。
自分のアプリをリリースする
↓
最初のバージョンを完成させる
↓
必要な機能を完成させる
↓
今週、ログイン機能を作る
↓
今日、登録画面を作る
山頂までの距離を考えると遠い。
でも、
「今日、登録画面を作る」
なら今日できる。
それが山頂まで続く道の上にあるなら、今日はそれでいい。
そして明日も絶対に標高を上げなければいけないわけではない。
休む日があってもいい。
やり方が違ったと気づいて、戻る日があってもいい。
別の道を探す日があってもいい。
重要なのは、毎日の標高ではなく、その道がどこへ続いているのかだと思う。
山頂と、今日の標高を一緒に見たい
山頂だけ見ていると、遠すぎる。
今日やることだけ見ていると、どこへ向かっているのか分からなくなる。
だったら、両方見られたらいい。
一番上には、いつか行きたい場所。
その下には、途中で到達したい場所。
さらにその下には、もう少し近い場所。
そして一番下には、今日登る高さ。
そんなふうに、山頂から今日まで一本の道としてつなげる。
それを形にしたのが、Route to Meだ。
今日、山頂に着く必要はない
エベレストを登る人でさえ、一気に山頂へは行かない。
登る。
休む。
ときには、せっかく登った道を下りる。
そして、また登る。
8,849m先を見ながら、今日登れる高さを登っていく。
大きなことをやろうとするときも、それくらいでいいのかもしれない。
今日、山頂に着く必要はない。
昨日より低い場所にいる日があってもいい。
ただ、また登れる日に登ればいい。
山頂を見ながら、今日の標高を少しずつ上げていく。
その繰り返しで、
いつか本当に、山頂に立てるのかもしれない。